幸せ家族製作所
2007年某月某日 不幸な少年をどうしても幸福にしたくて作りました。
2007'03.20.Tue
先日、ちょっとした騒ぎがあった。
いや、世間的には全く何もない。見事に内輪で解決をして、決して外に何も漏らさず、漏れた情報は徹底的に回収した眼前の男のおかげで、世間的には何もなかったことになっているが、いわゆる「営利誘拐」というものがあったのだ。
いろいろあって、かなりややこしかったその事態も、シュナイゼルの奔走と彼に使われたロイドやセシルの努力の甲斐あって、攫われた少年・・・・つまり今シュナイゼルの隣で座っているスザクは、なんとか無事戻ってきた。
(あの時は大変だった。本当に大変だったよ・・・・)
いろいろな意味で大変といわざるを得なかった。状況が予想外な転び方をしてくれたおかげで、えらく苦労した。
だがスザクは多少の傷はあるものの、無事戻ってきた。そのことは本当によかったとロイドも思う。
ロイドやセシルも勿論心配してはいた。だが何しろ普段慌てる姿など想像も出来ない友人が、それはもう顔色を失くして動揺していたのだから、本当に大したことがなくてよかったというしかない。万一何かとんでもないことでも起こっていた日には、その後何が起こるかを考えるのが恐ろしい。そうロイドが確信してしまうくらいには、シュナイゼルは殺気立っていた。
「しばらく、家を空けることが多くなる」
「スザク君を置いてくってことは、本家のほうの関係で?」
「そうだ。まだ継ぐ気も家におさまる気もないが、これのこともあるしな。父のご機嫌伺いに多少言うことは聞かねばならないだろう」
「まあ・・・・そうだろうねえ。ほとんど無理矢理、権利主張してあなたが仕切ってるからねえ。不審くらいは抱いてるだろうし」
「他の国の研究にまで口を出すことはしないから今のところは、というところだな。下手に藪をつついても仕方あるまい。ある程度は従順でいるさ」
溜息混じりにシュナイゼルが言うと、スザクがその顔を心配げに見上げる。
彼には何を言われているか半分ほどしか理解できなかったが、それでも自分のせいでシュナイゼルが負わなくてもいい苦労を負っている、ということは分かっていた。そしていつでもそれを酷く申し訳ないと思っているのだ。
スザクの表情からそれを読み取ったシュナイゼルは、苦笑しながらその頭を撫でる。
「大丈夫だと言っているだろう。別にこれくらいは大したことではない。大した問題になるのは、先日のようなことだ」
「・・・・・・・・」
先日のこと、とは勿論誘拐騒ぎのことだ。
それもまた自分が原因なんですが、と思ってしまうのだが、もうそれは口にしてはいけない言葉になっていた。
そのときの言葉でスザクが口に出来るのは「心配をかけてごめんなさい」というただそれだけだ。
「そういうわけで、一人で家に置いていくわけにもいかないから、お前のところで預かってくれ、とこうして頼みに来たんだが」
構わないな、と尋ねているとは到底思えない口調で言うシュナイゼルに、ロイドはやや情けない顔になる。
(ボクが、子供を預かる・・・・?)
正直に言ってしまえば、無理だろうと答えてしまいたかった。
ロイドは己を良く知っていた。
人間自体があまり好きではないし、子供はもっと好きではない。シュナイゼルのもとにスザクが来て以来、彼とは何度も話していたので、スザクがロイドの苦手とするような騒がしくて泣き喚くようなタイプの子供ではないことは理解していたが、それでももし自分の家に常に子供が居たら、と考えるとめまいがする。
ちらり、と当人を眺めてみると状況を理解しているのか、困ったような顔でロイドとシュナイゼルの間で視線を彷徨わせる。
(物事をよく分かってる、いい子なんだよね・・・・)
自分が嫌がっていることを感じて、困っている。
けれど、先日のようなことがもう一度起こったらと考えるシュナイゼルが自分をどれくらい心配しているのかも体験してしまった以上、簡単に「一人でも大丈夫」だとも言い出せない。
「・・・・・・・・」
ロイドはしばらく考えて、大きく溜息を吐く。
「とりあえず、今回は何日くらい帰るの?」
「往復も含めて一週間といったところだな」
シュナイゼルの答えにロイドは仕方がないともう一度大きく息を吐いた。
「とりあえず、様子見でもいいかい?どうせ君のことだからセシル君には話を通してあるんだろ?」
「勿論構わない。スザクの感想もあるしな。セシルは・・・・新婚なのに悪いな、と言ったら微妙に表情が引き攣っていたが・・・・お前、結婚早々、早くも離婚の危機じゃないのか?」
「――不吉なこと言わないでくれる?」
折角人が譲歩してるっていうのに、とロイドは思わず眼前の男を殴ってやりたくなった。
**********
というわけで、お試し期間、です。ハイ。
誘拐話はなんとなく頭の中で浮かんできました。殿下が怖いです。(笑)
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