幸せ家族製作所
2007年某月某日 不幸な少年をどうしても幸福にしたくて作りました。
(2日目 その2)
「あら、スザク君ありがとう」
食べ終わった後の食器を片付け始めたスザクに、セシルは声を掛ける。
一応昨日どんな生活を送っていたかは聞いていたが、見事にその言葉通りの生活リズムに朝から驚いてしまった。
何しろ起きてきたら「走ってきます」という書置きがあったのだ。だがそれは時間にすると大分前のことだったらしく、実際にはスザクはもう走り終えて、庭でトレーニングをしていた。セシルは見たこともない不思議な動きだったが、ひとつひとつが空気が止まったようにきれいな動きで、思わず見ほれてしまった。
視線に気付いたスザクが「おはようございます」と声を掛けてくるまで、ぼうっと見ていてしまったことに気付いたときは、さすがに少し気恥ずかしかった。
「ごちそうさまでした。その、美味しかったです」
どこか照れたようににこりと笑うさまは、やはり愛らしい。
「ありがとう。沢山食べてもらえてそういってもらえると、やっぱり張り合いがあるわ」
あの人だけだと張り合いがなくて、とわざと聞こえるように言ってみるが、相変わらず聞こえない振りだ。それを目を細めて見たセシルは小さく舌打ちしようとして、スザクの視線に気付く。
「あ、あら。うふふ。どうしたの、スザク君?」
「え、あの、いえ、なんでもないです!」
慌てたように手を振って否定するスザクに優しく微笑みかけて、セシルは胸をなでおろす。
(いけないいけない。子供の前で鉄拳なんて。ちゃんとスザク君がいないときに怒らないと)
悪い影響を与えてしまう、となんとか握った拳を解く。
「・・・・・・・・」
それを強張ったような笑顔で見詰めたスザクは、今確かに殺気を感じた、と優しいはずのセシルの笑顔を不思議なものを見るような視線で眺めてしまった。
「ねえスザク君、これ見てみてくれる?」
片づけと洗濯をスザクに手伝ったもらい、いつもより手際よく終えたセシルは、やたらとうきうきとスザクに声を掛ける。
「はい?」
さて今からどうしよう、と考えていたスザクは呼ばれて素直にそちらに向かう。
セシルの手には、小さなファイルのようなものが乗っていた。
「あ~、それ、もしかして昨日の?」
ロイドにはそれがなんであるか想像できた。昨日の今日のことなので、さすがに彼でも検討がついた。
「ええ、昨日印刷してもらったものです」
にこりとした笑顔はとても嬉しそうだった。
(いや、それは確かにボクも可愛いと思うけど、多分見せられた本人はあんまり嬉しくないんじゃないかなあ)
ちらりとスザクを同情の視線で眺めるが、勿論そんなことを口にしたりはしない。ロイドは自分が可愛かった。
「それ、なんですか?」
不思議そうに尋ねるスザクの言葉に、セシルは本当に嬉しそうな笑顔でそれを開いた。
「う・・・・」
そこにあったものに、スザクは固まる。
勿論それは、昨晩セシルによって撮影されたスザクの写真だ。
ぬいぐるみを抱きしめて眠るスザクの。
「よく撮れてるでしょ?」
すごく可愛いわよね、と言われてもなんと答えればいいのか全く分からなかった。というよりも、正直どうしたらいいのか分からないくらいに恥ずかしかった。
(こ、これは・・・・)
自分以外の誰かの姿だったら笑顔で眺められたのかもしれない。多少可愛くなくとも、きっと微笑ましく眺められただろう。
けれど、それは自分の姿で。
この年になってくまのぬいぐるみを抱きかかえて眠る姿、とあった日には。
「え、と。その・・・・僕、可愛くなんてないです、よ?」
なんだか認めてしまってはまずいことになってしまう気がして、スザクはなんとかそう言葉を返す。
だが、セシルの笑みを揺らがない。
「すっごく可愛いわよ!誰に見せても絶対に可愛いって言うわよ」
ねえロイドさん、と話を振られたロイドは、縋るようなスザクの視線を振り払いつつ「そうですね」と返す。というか、それしか返すことが出来なかった。
「だ、誰に見せても・・・・」
恥ずかしいからやめてください、と言いたかった。
けれど、向けられる絶対の笑顔に言葉を返すことが出来ない。
シュナイゼルにもこれに近いことをされたことはあったが、あちらには反抗的な言葉を口にすることも出来たのだが、それがセシルには何故か出来ない。
(ひょっとしてセシルさんて、ものすごく強い人なのか、な・・・・?)
スザクはやや泣きたいような気持ちになりながら、そんなことを考えた。
その写真、お願いですから他の人に見せないで下さい、と願いながら。
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怒らなくてもセシルさんは無敵だと思います。
ちょっとなんだか書きにくかったのは何故だろう・・・・2日目はもうひとつと、あとはまたオマケがひとつで終わりになります。その続きは・・・・どうしよう。全部は書かないと思うんですが。(苦笑)